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コロナ禍で大きな打撃を受けた外食各社の業績が復活してきた。主要企業では、過去最高益をたたき出す企業が続出している。今回は、外食大手3社の決算書、特に損益計算書(P/L)に注目し、各社の抱える課題を読み解いていく。まずは、P/Lの基本を押さえよう。(中京大学国際学部・同大学院人文社会科学研究科教授 矢部謙介)
● 過去最高益更新が続出の外食業界 そこに隠された経営課題とは?
2023年5月に新型コロナウイルス感染症の取り扱いが季節性インフルエンザなどと同じ5類感染症に移行して以来、外食の需要は回復基調にある。
そんな中、今回は最新決算で過去最高益を更新した外食大手、トリドールホールディングス(以下、トリドールHD)、ロイヤルホールディングス(以下、ロイヤルHD)、イートアンドホールディングス(以下、イートアンドHD)の決算書を取り上げて解説しよう。
トリドールHDは、うどん店「丸亀製麺」を主力業態とし、カフェやラーメン店、焼鳥店などを展開している。最近では、香港のTam Jai International(以下、タムジャイ)を18年1月に買収し、丸亀製麺の海外業態である「MARUGAME UDON」を米国、台湾、英国などで展開するなど、海外事業を積極的に拡大している。
トリドールHD(国際会計基準〔IFRS〕を採用)における24年3月期の売上収益(売上高に相当)は約2319億5200万円、事業利益※は約145億3600万円とそれぞれ過去最高を記録。23年3月期の売上収益約1883億2000万円、営業利益約69億8400万円からの大幅な増収増益となった。
注※トリドールHDにおける事業利益=売上収益-売上原価―販売費及び一般管理費(販管費)、日本の会計基準での営業利益に相当するため、以下では営業利益と呼ぶ
ロイヤルHDは、レストラン「ロイヤルホスト」や天丼・天ぷら店「てんや」などを展開しており、外食事業以外にも空港や高速道路のサービスエリア・パーキングエリアなどで飲食業態を展開するコントラクト事業や、「リッチモンドホテル」などを手掛けるホテル事業を運営している。21年2月には、財務基盤の改善やポストコロナへの対応などを目的に、総合商社の双日との資本業務提携を発表したことでも話題となった。
ロイヤルHDの最新決算である23年12月期の売上高は約1389億4000万円、営業利益は約60億7400万円だった。22年12月期の売上高が約1040億1500万円、営業利益が約21億9200万円であったことから、前期比増収増益だ。売上高は19年12月期の約1405億7800万円には及ばなかったものの、営業利益は17年12月期以来の過去最高更新となった。
イートアンドHDは中華料理店「大阪王将」やラーメン店「よってこや」、ベーカリー・カフェの「R Baker」などを展開する外食事業に加えて、大阪王将ブランドの冷凍食品を販売する食品事業を手掛けている。
イートアンドHDの24年2月期決算の売上高は約359億2200万円、営業利益は約10億5900万円だった。23年2月期の売上高約330億3300万円、営業利益約9億1500万円からの増収増益だ。また、同社においても売上高、営業利益は過去最高を更新している。
以上のように業績好調な各社だが、ビジネスモデルや戦略はそれぞれ異なる。また、主要な決算書の一つである損益計算書(Profit and Loss Statementの頭文字をとってP/Lとも呼ばれる。以下、P/Lと表記する)のデータからは、過去最高益の中に隠された各社の経営課題を読み解くことができる。
今回はまず、各社の違いがP/Lにどのような差を生み出しているのかを見ていく。そして、各社はどのような経営課題を抱えているのか、コロナ禍におけるP/Lと最新のP/Lを比較しながら解説していくことにしよう。
● 企業の「もうけ方」が読み解ける P/Lの基本構造
3社のP/Lについて解説する前に、P/Lの基本構造についておさらいしておこう。
P/Lは、1年間の取引を通じて得られた収益(売上高など)から費用を差し引いた利益を計算することを目的に作成される。P/Lを読む際にも、前回(https://diamond.jp/articles/-/343736)解説したB/Sと同様に比例縮尺図に図解して読む方法が有効だ。
P/Lを図解する際には、上図の左側に示すように、収益項目(売上高、営業外収益、特別利益)を右側に、費用項目(売上原価、販売費及び一般管理費〔以下、販管費〕、営業外費用、特別損失、法人税等)を左側に表示する。そして、「収益-費用」がプラスならば当期純利益の金額を左側に、マイナスならば当期純損失の金額を右側に表示する。
本業における収益、費用、利益の構造を把握したいのであれば、図の右側に表示したように、営業利益までの項目に絞って図解するのがシンプルで分かりやすい。
この場合、図の右側には商品や製品、サービスを販売したことによる「売上高」が表示される。
左側には、商品や製品を仕入れ・製造するのにかかった費用である「売上原価」と、売上原価以外に本業で必要となった費用である「販管費」が表示される。そして、「売上高-売上原価-販管費」がプラスならば、その金額を「営業利益」として左側に、マイナスならばその金額を「営業損失」として右側に表示する。
営業利益は、会社が本業で稼いだ利益を表すため、ここまでのP/Lの構造を理解しておけば、その会社が本業で稼いだ利益の構造を読み解くことができる。
もちろん、さまざまな会社を分析していくと、会社の本業以外の経常的な活動から発生する営業外収益・費用や、その年限りの臨時の利益や損失である特別利益・損失に大きな金額が計上されており、そうした項目を含めてP/Lの構造を把握したい場合もある。そうした際には、左側の図のように、P/L全体を図解したほうがよいだろう。
また、上場子会社などを多く抱えるなど、非支配株主に帰属する当期純利益(当期純利益のうち、親会社以外の非支配株主に帰属する金額)が大きい場合には、当期純利益を親会社株主に帰属する当期純利益と非支配株主に帰属する当期純利益に分解して見ていくことが必要だ。
● コロナ禍でも黒字を確保した イートアンドHD
では、イートアンドHDのP/Lについて解説しよう。下図は、コロナ禍における決算の21年2月期と、24年2月期のP/Lを比較したものだ。なお、21年2月期には多額の特別損益が計上されているが、今回は本業における利益構造に着目するため、営業利益までの項目に絞って図解する。
左側の21年2月期(11ヶ月の変則決算)から見ていこう。売上高が約259億6400万円であるのに対し、売上原価は約157億4300万円(原価率は約61%)、販管費は約99億6000万円(販管費率は約38%)となっている。営業利益は約2億6100万円で、売上高営業利益率(=営業利益÷売上高)は約1%だ。
外食業における原価率は通常30%前後だが、イートアンドHDの原価率は約61%と高い。
これは、イートアンドHDの外食事業における直営店の割合が21年2月末現在で約19%(24年2月末現在では約23%)と低く、FC加盟店に向けた食材卸の売上高の割合が大きいことと、冷凍食品の販売を手掛ける食品事業のウエートが大きいことが影響していると推測される。
なお、その前期の決算である20年3月期の売上高は約303億6200万円、営業利益は約8億1000万円(売上高営業利益率は約3%)だった。21年2月期は11カ月の変則決算のため本来単純比較はできないが、減益ではあるものの営業黒字を確保している。当時、多くの外食企業が大きな赤字になっていたことを考えると、十分健闘している決算だといえる。
続いて、24年2月期のP/L(右側)も見ていこう。
売上高は約359億2200万円となっており、21年2月期と比較すると約100億円の増収となっている。20年3月期と比較しても50億円以上の増収だ。
対して、売上原価は約215億9600万円(原価率は約60%)、販管費は約132億6600万円(販管費率は約37%)となっており、営業利益は約10億5900万円(売上高営業利益率は約3%)だ。増収の割には、イートアンドHDの収益性はそこまで高まっていない。
イートアンドHDがコロナ禍においても黒字を確保できた秘訣は何だったのだろうか。また、最新決算は大きな増収にもかかわらず、そこまで収益性が高まらなかった理由についても、後編で解説していくことにしよう。
矢部謙介(やべ・けんすけ)/中京大学国際学部・同大学院人文社会科学研究科教授。ローランド・ベルガー勤務などを経て現職。マックスバリュ東海社外取締役も務める。X(@ybknsk)にて、決算書が読めるようになる参加型コンテンツ「会計思考力入門ゼミ」を配信中。著書に『決算書の比較図鑑』『武器としての会計思考力』『武器としての会計ファイナンス』『粉飾&黒字倒産を読む』(以上、日本実業出版社)など。