● 奥大山の天然水と酒米で醸す、生酛造りの純米原酒
大山隠岐国立公園の中央にそびえる大山は、標高1729メートルと中国地方の最高峰。山岳信仰の霊場として入山が制限された時代もあって、今も豊かな自然が残り、奥大山一帯は西日本最大級のブナの自然林が広がる。降雪量も多く、雪解け水が土壌で濾過されて上質な天然水が湧く。大山南麓の江府町は、町営の水工場ヨーデルの他、サントリープロダクツなど複数の会社の採水地に選ばれている。
その奥大山の天然水で酒造りをするのが、江府町の宿場町江尾で1877年に創業した大岩酒造本店だ。35年ほど前、町から大山の標高800mで湧く天然水を商品化したいと協力要請があった。水の販売は好評で、その後、事業は第3セクターが引き継いだが、水の良さに引かれ、仕込み水を天然水に変更。「硬度は約20の軟水で、酒からも天然水の良さが味わえます」と、5代目で杜氏を務める大岩一彦さん。自然に滴る酒を詰めた大吟醸「奥大山の雫」など、奥大山を酒で表現する。そして、5年前から挑戦しているのが生酛造りだ。硬い蒸し米を人力ですりつぶす必要があり「天然水で行う天然の造りに憧れて始めたものの、正直、大変なものに手を出したと後悔しています」と苦笑いする。「毎年が1年生」で取り組んだ生酛の酒は、深く染み入る味だ。江府町は水の良さに加え、寒暖差のある気候環境が良質な米を育む。大岩さんが使う酒米は、全て町内産の山田錦と五百万石で「奥大山の恵みをこの一本に」がうたい文句だ。