(写真:たみっきー PIXTA(ピクスタ))/>
企業の決算から、不動産業界の現状について考える本連載。
今回取り上げるのはイオンモール株式会社です。もちろん、商業施設のイオンモールの運営を主力としている企業です。
イオンモールは2025年3月期、26年ぶりに国内出店数がゼロとなる見通しを発表しました。
イオンモールは大型商業施設として、その周辺の不動産にも影響を与えます。イオンモールで今何が起きているのか、その現状について決算から確認していきましょう。
■業態は「不動産業」、売上構成は8割が国内事業
まずは事業内容から見ていきます。
イオンモールと似たような業態に「百貨店」がありますが、両者には大きな違いがあります。それは小売業か不動産業かです。
百貨店が小売業なのに対して、イオンモールは不動産業となっています。イオンモールの収益構造は、入店するテナントからの賃料とその収益に応じた歩合収入となっています。
コロナ禍では小売業である多くの百貨店が赤字となる中、イオンモールは賃料による固定収入があるため黒字を維持していました。
百貨店などの小売業と比べて、安定した収益が期待できる業態だということですね。
とはいえ、販売に連動して歩合収入が増加するモデルなので、店舗の売上に業績は左右されます。イオンモールの集客が、業績にとって重要ということです。
続いて、イオンモールの事業セグメントを見ていくと(1)日本、(2)中国、(3)アセアン、と出店地域ごとの3つになっています。
2023年2月期時点での事業ごとの売上構成と(利益)は以下の通りです。
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(1)日本…81%(364億円)
(2)中国…13%(66億円)
(3)アセアン…6%(32億円)
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中国やアセアンでも一定の規模がありますが、日本が中心の構成となっています。日本市場の動向に業績が左右されやすい企業だと分かります。
■施設数が増えるも収益性低下
それでは事業内容がある程度分かったところで、2020年2月期~直近の2024年2月期までの業績推移を見ていきましょう。
まず売上高の推移を見てみると、2021年2月期にはコロナの影響で十分に営業ができなかった影響もあり、前期比で減少しています。
(外部配信先では図表、グラフなどの画像を全て閲覧できない場合があります。その際は楽待新聞内でお読みください)
それ以降は増加傾向となり、2023年2月期以降はコロナ以前を大きく上回って推移しています。
一方で利益面の推移を見てみると、2021年2月期には大幅減益となり、それ以降は増益傾向が続いているものの、コロナの影響がほぼなかった2020年2月期を大きく下回って推移しています。
(外部配信先では図表、グラフなどの画像を全て閲覧できない場合があります。その際は楽待新聞内でお読みください)
2020年2月期の営業利益が608億円ほどだったのに対して、2024年2月期でも464億円という状況です。コロナ以前と比べると、収益性が低下していることが分かります。
続いて、施設数を2020年2月期と2024年6月末で比べてみると以下の通りです。
・172施設→192施設
施設数の増加によって増収となっていたものの、施設あたりの収益性が低下していたということですね。
続いてもう少し詳しく、2020年2月期と2024年2月期のセグメント別の営業利益を比較してみると以下の通りです。
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(1)日本:525億円→358億円
(2)中国:56億円→65億円
(3)アセアン:27億円→40億円
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海外はコロナ以前と比べても増益となりましたが、国内事業が大幅減益となっています。
営業収益も、2024年2月期に関しては過去最高を達成し、海外事業も過去最高益になったとしていますが、国内事業の低迷で全社としては最高益を達成できていない状況です。
セグメント別の施設数の推移を見てみると以下の通りです。
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(1)日本:142施設→164施設
(2)中国:21施設→23施設
(3)アセアン:9施設→15施設
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海外事業は施設数が増加し増益となったものの、国内事業は施設数が増加しながら大幅減益と、大きく収益性を落としていたことが分かります。
収益性低下の要因は、特に国内事業にあったということですね。
■国内では「抜本的な改革」必要
国内においては、外部環境の変化として人口減少、少子高齢化に伴う人手不足の顕在化、内部環境としてはアパレルを中心とする専門店売上の低迷、建設コスト高騰による建設単価高止まりに伴う投資効率の低下が大きな課題になっているとしています。
さらに、コロナ禍を経て顧客の日常生活の価値観やライフスタイルの変化もあったとしています。商業施設に対しても単に購買体験を求めるのではなく、「なぜそこに行くのか」という理由、動機となる体験価値を求めるようになっているということです。
コロナ禍で外出需要が低迷した期間を経て、「とりあえずイオンモールへショッピングに出かける」といった行動習慣が失われ、より強い動機付けが無いと来店してもらいにくくなったということですね。
さらに、最近はインフレが進む中で消費にも一定の悪影響があります。
コロナ禍を経たライフスタイルや価値観の変化によってイオンモールという業態の集客力が落ち、インフレが進む中で集客面が苦戦、さらに賃金上昇や建設コストも増加して収益性が低下しているということです。
外部環境、内部環境ともに変化があり、業績の改善は容易な状況ではないということが分かります。
実際にイオンモールも、国内では抜本的な事業構造の改革が必要だとしています。
店舗活性化や運営の効率化を進めることに加えて、2025年3月期はキャッシュ・フロー創出力が低下した店舗の閉鎖に向けて継続的な交渉を実施していくとしています。
そして2024年度では複数店舗の抜本的な構造改革実施のために、60億円の特別損失の計上を見込んでいる状況です。
収益性が低下しているのはコロナによる一時要因ではなく、長期化を見込んで構造改革が必要な状況ということですね。
また、設備投資に関しても、国内で近年大きく増加しているのは施設活性化のための投資です。
ライフスタイルの変化に対して、来店動機の創出や滞留時間の増加など、施設活性化のためのリニューアルを多数予定しています。
これまでは施設数増加によって大きな拡大を続けてきたイオンモールですが、国内事業では転換点を迎えたことが分かります。
低収益施設は撤退も進め、投資は店舗活性化のためのものが中心になり、事業拡大ではなく収益性の改善を進める段階になったということです。
今後も、国内で大きく施設数を増やしていくことは想定しにくい状況でしょう。
■堅調に拡大する海外事業でもかげり?
そういった中、出店計画を後ろ倒しにしたことで2025年3月期の国内の出店は26年ぶりのゼロとなりました。
さらに2026年3月期に関しても、当初は国内4施設の出店を計画していましたが、その内1施設も2027年3月期に後ろ倒しとなっています。
ライフスタイルの変化による集客力の低下と、コスト増加の中で採算が見込めなくなっており、まずは国内既存店の収益力回復が優先課題だということです。
2025年度までには年間4億円、2030年度末までには年間30億円の営業利益の改善を進めようとしていますから、国内の収益性改善が進むかには注目です。
また、国内が苦戦する一方で成長が続いており、今後も拡大を進めようとしているのが海外市場です。ベトナムや中国といった将来の成長性が高いエリアで、出店加速を進めていくとしています。
そのため国内の出店がゼロとなった2025年3月期においても、中国・アセアンともに2施設、計4施設の出店を見込んでいます。
とはいえ、海外市場においても2026年3月期に関しては中国・アセアン共に開業スケジュールが後ろ倒しとなっています。中国は2施設、アセアンでは5施設が後ろ倒しとなりました。
中国では不動産市況の悪化に伴う物件地周辺のまちづくり活動の遅れ、ベトナムでは政府による開発許認可に時間を要している状況のようです。
成長を見込む海外市場においても、一定の停滞傾向になっているということですね。
特に中国に関しては市況悪化も影響しています。経済環境を考慮しても、今後の中国事業の業績自体が一定の苦戦傾向となる可能性があります。
堅調な拡大を見せる海外事業の業績も低迷すれば、国内事業への投資判断に関してもより厳格なものとなるでしょう。
そうなれば、低収益店舗の撤退の加速や、出店抑制の長期化も想定されますから、国内の動向を考える上でも中国市場の動向には特に注目です。
妄想する決算/楽待新聞編集部