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財務省が煽る「ワニの口」は幻想だ!財政赤字の真実を元日銀審議委員が分析

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2024-06-30 19:02

財務省が煽る「ワニの口」は幻想だ!財政赤字の真実を元日銀審議委員が分析

  Photo:PIXTA/>

  日本の財政赤字はひどく、それゆえに税収を上げなければならない、という言説はよく聞かれる。しかし、その理屈は本当なのか。経済学者が真偽を解説する。本稿は、原田泰著『日本人の賃金を上げる唯一の方法』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

  ● 財務省が語る「ワニの口」 本当に存在するのか

  日本の財政状況は危機的といわれており、このままでは、財政は破綻するといわれている。国債の償還ができない、ハイパーインフレになる、金利が暴騰する、円が暴落するなどの危機が起きるというのだ。ところが、現在までのところ何も起きていない。

  まず、何も起きないのはなぜかという理屈ではなくて、そもそも財政が危機的状況という認識についての疑問を述べたい。

  財政の危機的状況を表す言葉として「ワニの口」という表現がある。たとえば、財務省のホームページ内「日本の財政を考える」では「これまで、歳出は一貫して伸び続ける一方、税収はバブル経済が崩壊した1990年度を境に伸び悩み、その差はワニの口のように開いてしまいました。」との記述がされており、ワニの口のグラフには、口を開いたワニのイラストも示されている。

  ワニの口のグラフは、図4-2-1のようになる。しかし、これはワニの口に見えない。なぜならワニの口とは、端に向かうに従って一方的に拡大していくものだからだ。

  歳出と税収の差が本当に「ワニの口」の形をしていたのは、1990年度から99年度までであり、その後ワニの口は閉じ気味になっていった。2008年のリーマン・ショック時には再びワニの口となったが、その後も閉じ気味になった。

  20年度以降、現在までのコロナショック時では再び開いているが、拡大し続けているというわけではない。すなわち、2000年度以降の歳出と税収の差は、何かショックがあるときには極端に開くが、その後は閉じ気味になる、という動きをしている。

  ● 歳出に「国債償還費」込み 財務省のグラフのトリック

  さらに、図4-2-1のグラフにはトリックがある。歳出に「国債償還費」が入っているからだ。国債償還費を歳出に入れるのはおかしい。

  会計を勉強したことのある人は、支出-収入=借金の増減(プラスが借金の増加)とならなければおかしいと思うだろう。会計を学んだことのない人も、常識で、収入よりも多く使ってしまった額が債務の増で、借金を返したら債務が減るのだから債務償還費を支出に入れるのはおかしいと思ってくれるだろう。

  あるいは、直感的に、住宅ローンの繰り上げ償還をしたら家計の財務状況が悪化すると考えるのはおかしいと思うだろう。だから、債務状況を考えるときに債務償還費を入れるべきではない。

  図4-2-2は、支出から国債償還費を除いたものである。これを見ると、1999年度以降とリーマン・ショック以降、ワニの口はずいぶんと閉じていることが分かる。

  さらに、借金は自分の所得と比べるべきである。年収500万円の人の500万円の借金と年収1000万円の人の500万円の借金は意味が異なる。だから、国の借金は、国全体の所得、GDPで割るべきである。それを踏まえて作成したのが図4-2-3である。

  この図では、ワニの口はさらに閉じている。わずかながらも分母が大きくなっているので、財政赤字は実質的にはさらに縮小している。

  ちなみに、ワニの口、すなわち「歳出-国債償還費」-「税収」の対GDP比は、2009年度のマイナス10.0%(過去最悪の数字)から、18年度にはマイナス4.2%と5.8%ポイントも改善している。うち、5%から8%への消費税増税によって改善した分は1.5%ポイントにすぎない。

  なお、2019年度で比べていないのは、19年10月に消費税を10%に増税したにもかかわらず税収が減少し、赤字も拡大しているからである。消費税増税による消費減の影響が表れていたのかもしれない。

  もちろん、2020年度以降は財政状況が大幅に悪化しているが、コロナショック対応で財政支出が拡大するのは、ある程度は避けられない。

  ● 「金融緩和が財政規律を緩める」 財政学者たちの奇妙な理論

  財政を改善する金融緩和政策が、財政拡大の誘因となり、むしろ財政規律を緩めると主張する財政学者、エコノミストも多いのだが(たとえば河野龍太郎『成長の臨界「飽和資本主義」はどこへ向かうのか』288─289頁、慶應義塾大学出版会、2022年)、奇妙な論理である。

  財政改善が財政規律を緩めるなら、増税で財政状況が改善しても、財政支出拡大の誘因が働くはずだ。実際、消費税増税時は、増税のショックを和らげるためとして、さまざまな財政拡大措置がなされることが多い。

  分母(名目GDP)を拡大させ、景気拡大による増収があれば、財政再建が楽になるというのは全く当たり前のことだと私は思うのだが、ほとんどの経済学者がこの方法を否定している。彼らは、安倍政権が現実になし得たことを見ていないのである。

  もちろん、そうでない経済学者もいる。伊藤元重・東京大学名誉教授は「公的債務比率の縮小には、分母の名目GDPを増やすことも重要だ。高い成長率が実現できない場合は、物価上昇で引き上げる必要がある」と述べている。

  ● 日本は赤字を減らしている ワニの口は閉じてくる

  日本の財政状況は危機的なのに、物価も上がらず、金利も上がらず、円も大して下がらなかった。これは不思議だが、日本の財政状況は健全というほどではなくても、穏当に赤字を減らしている、と考えると謎が解ける。長期的に財政赤字を減らすようにしているので、人々は安心して国債を購入し続けているのだろう。

  これに対し、たしかに1999~2008年度、2009~18年度を考えればワニの口は閉じ気味だが、リーマン・ショック時、コロナショック時では一挙に財政赤字が膨らんでいるのだから、財政状況が健全化しているとはいえない、という反論が出るだろう。

  しかし、危機時に財政赤字が膨らむのは世界中どこでも同じである。日本の財政状況が悪いから財政状況のよい国の国債を買おうとしても、世界中の財政状況が悪化している。財政状況のよい国はどこにもない。

  また、危機のときに実物投資をする人もいない。銀行にとってみれば、貸出先もなく、仕方がないので国債を買っているしかない。景気が悪いから物価も上がらない。貸出先も投資先もないのだから、金利も上がらない。海外に資金が流れることもないのだから、円も下落しない。だから物価も上がらず、金利も上がらず、円も下がらない。

  経済が元に戻れば、歳出も税収も元に戻るから、ワニの口はゆっくりと閉じてくる。だから、焦って海外に資金を流出させたり、国債を売ったりしないのだろう。

  なお、それでもワニの口の閉じ方はわずかだという反論があるかもしれない。とくに、コロナショック後の閉じ方がわずかだという反論があるだろう。しかし、ここでワニの口が閉じないのは、税収が上がっているのに、一度拡大した政府支出が減らないからである。

  この図を見ていると、私は、税収が上がるから安心して支出を増やし、政府赤字が拡大しているのではないかという気がしてくる。

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