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「ネットでだらだら」は必要な時間という新視点 「サボっている」と糾弾するのはナンセンス

iconYAHOO·JAPAN

2024-06-23 17:02

多くの人は自分のキャパシティを超えても、頑張って働こうとしている。しかし身体と脳は、完全に心身が壊れる前に「ブレーキを踏...

  やることはいっぱいあるのに、SNSを見たり、ネットショッピングをしたり、“脱線”してしまうことを、後ろめたく思う必要はないのかもしれません(写真:pearlinheart PIXTA)/>

  多くの人は自分のキャパシティを超えても、頑張って働こうとしている。しかし身体と脳は、完全に心身が壊れる前に「ブレーキを踏め」とサインを出してくる。それが「何もしたくない」などの感情を生み出すのだが、怠けることを「よく思わない」人が多いのも事実。しかし身体と体からのサインを無視し続けてもいいのだろうか? デヴォン・プライス氏の著書『「怠惰」なんて存在しない 終わりなき生産性競争から抜け出すための幸福論』から一部を抜粋して考える。

  ■SNSやネットショッピングはサボり?

  私が指導を担当している大学院生のマーヴィンは、本人の意志に反して「怠惰」な行動をしてしまう事象を研究しようと考えた。ストレスや疲れがあるときに、人びとがFacebookを見たりネットショッピングをしたりする現象に着目したのだ。

  これは多くの人に馴染みのあるサボり方で(あなたはどうか知らないが、私はほぼ毎日欠かさずやっている)、社会科学の研究では「サイバー・ローフィング」(ネット上でぶらぶらすること)と呼ばれている。

  平均的な人は1日に何度もサイバー・ローフィングをしているが、特に知的負荷の高いタスクを終えた後や、ある案件から別の作業へと心理的な「ギアチェンジ」が必要な際に、この行為がよく見られる。

  サイバー・ローフィングは、一度リラックスして脳を再活性化するための行動で、職場の給湯室でおしゃべりをしたり、特に必要はないのに備品スペースまでペンを取りにいったりする行為と本質的には同じだ。

  生産性の専門家や経営者には、サイバー・ローフィングは評判が悪い。業務時間「泥棒」的なひどく怠惰な行為だと嫌われている。2014年の調査では、サイバー・ローフィングによる生産性の損失は推計年間540億ドルに上る。

  だが、この手の計算は根拠のない仮定に基づいているため額面通りに受け取るべきではない。サイバー・ローフィングの時間がまるまる生産的に使われた場合を仮定しており、働く人たちが怠惰になることは想定していない。果たしてそれは現実的なのか、マーヴィンは疑念を持った。

  マーヴィンが先行研究にあたったところ、サイバー・ローフィングのポジティブな効果を示す研究が見つかった。

  ■「ネットでだらだら」は生産性向上に有用

  2017年にメディア研究者のシャファート・フセインとトラプティマイ・パリダがエチオピアの行政補佐官を対象に行った研究では、短時間のサイバー・ローフィングは、退屈な事務仕事を片付けるのに役立っていた。

  長時間にわたる文書作成、ファイル整理、複製資料の作成、その他の雑用には飽きが来るが、サイバー・ローフィングによって精神的にリフレッシュでき、仕事を再開する気力が回復するため、生産性が保たれていたのだ。うまくサイバー・ローフィングを取り入れることで、従業員の生産性が上がったとする研究は他にもある。

  加えて、サイバー・ローフィングによってチームがうまく機能するようになり、業務上の課題にユニークな解決法を考案できるようになると示す研究も見つかった。だらだら過ごすことで、クリエイティビティや洞察力が改善するのだ。

  さらにマーヴィンは、一定量のサイバー・ローフィングは不可避だという根拠も見つけた。トイレやランチ休憩と同様に、働く人には脳を休める時間が必要なのだ。

  何時間も仕事に集中していると、自制心は徐々に低下し、サイバー・ローフィングへの衝動は強まる。こうして自制心が負けると、何か気晴らしをしようとする。

  経営者や管理職は、従業員のこうした行為を防止すべく、パソコン使用履歴をモニタリングしたり、FacebookやAmazonが表示されないソフトウェアを導入したりする。単純に、サボっている社員を見つけて叱責することもあろう。

  だが、どんな対策をしようとも、サイバー・ローフィングは不可避だと示す研究は多い。

  機嫌よく仕事に集中するためには、だらだらとローフィングして過ごす時間が必要なのだ。それを「時間の無駄」だと見なすのは、トイレ休憩は道楽だから不要だと言うに等しい。

  インターネットを使ってサボれなくなっても、従業員は別の方法を見つけて逃避をする。お茶を淹れる、鉛筆を削る、同僚の席に行って世間話をするなど、別の「時間の無駄」を編み出すわけだ。

  職場の生産性の研究では、こうした行為も「時間の無駄」とされるが、それをなくす方法は発見されていない。「時間の無駄」は人間にとって自然かつ健全で、重要なことだからだ。

  経営者は嫌がるかもしれないが、こうした時間の使い方は「泥棒」ではなく、必要な「息継ぎ」なのだ。

  ■頑張りすぎて限界に達すると…

  自分の好きなローフィングの手段が禁止されても、従業員の脳はいくらでも別の方法を見つけて、ひと息ついてみせる。あらゆる息抜きが禁じられても、虚空を見つめてぼーっとすることは可能だ。

  「怠惰」とされる行為をやりたくなるのは往々にして、一生懸命に働いた証拠であり、ひと息つくべきという信号なのだ。

  人が携わるほとんどの仕事には、振り返りや計画、クリエイティブなアイデアの発案などのための時間が必要だ。

  私たちはロボットやコンピューターではない。食べたり寝たりするのと同様に、だらだらする無為な時間も必要なのだ。「怠惰」になることを恐れるあまり、この充電への欲求を無視していると、深刻な事態を招きかねない。

  「怠惰」だと非難されがちな一見「悪い」行動は、実は警告信号であり、生活のどこかを変える必要を強く訴えている。組織レベルでは、従業員に怠惰な行動が見られる場合、職場マネジメントの問題を示している。

  職場の生産性を研究している産業組織心理学者のアネット・タウラー博士によると、不適切なマネジメントやいじめを受けると、従業員は欠勤の増加などの「怠惰」な行為でやり過ごすようになるが、これはひそかな警告信号なのだ。

  「無断欠勤は、有害な職場で見られる初期兆候の一つね」とアネットは言う。「無断欠勤をする従業員が出てくると、マネジャーは『なんだ、みんな怠けやがって』って部下を信用しなくなるのだけど、実際には、部下はいじめや有害な職場を避けようとしているのよね」

  頑張りすぎて限界に達した人には、いい加減な態度や無気力が目立つようになる。職場への遅刻や友人との約束のドタキャンも増える。料理など家事をやる気もなくなり、よく居眠りをし、単純なゲームをぼーっと続けている。

  衝動が抑えられなくなり、元気もなくなる。これらの症状は、その人のダメさや怠慢を示しているのではない。瀬戸際まで追い詰められている危険信号なのだ。

  ■サボりは人間の標準仕様

  こうした「怠惰」な行動は、数世紀にわたって悪者扱いされてきたが、実際は何も悪くないし、有害でもない。サボりは人間の標準仕様であり、頭をスッキリさせて健やかにいるためには働かない時間が必要なのだ。

  怠惰な気分は私たちの内からの強い警告で、「もっと休養を」「手助けが必要だ」「タスクを減らすべきだ」と心身が訴えているのだ。

  この怠惰の信号にきちんと耳を傾ければ、自分の欲求を理解して、本当に価値のある人生を送れるようになる。

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