新札は7月3日に発行予定。日本株上昇のカギは円高にあるかもしれない(写真:ブルームバーグ)/>
前回のコラム「日経平均は4万1000円が今年の高値となりそうだ」(5月12日配信)では、日経平均株価について「もし今後上昇しても、3月の最高値を抜くことは難しそう」とした。
■日経平均は3月高値が今年の高値になったかもしれない
結論から言えば、日経平均株価は「上値4万1000円、下値3万5500円のレンジ相場」に移行しており、やはり3月22日のザラバ最高値4万1087円(終値4万0888円)が今年の高値になった可能性が大きいとみている。
すでにアメリカでは5月15日にS&P500種指数など主要3指数がそろって終値ベースで最高値を更新。同月17日にはNYダウ工業株30種平均が終値で初の4万ドルに乗せたほか、同月22日に発表された画像処理半導体大手エヌビディアの今後の見通しも、市場の期待以上だった。
同社を代表とする大型ハイテク株が牽引役となる形でナスダック総合指数は6月5日に史上最高値を更新、1万7186ポイントをつけたが、この流れはおおむね筆者が事前に予想したとおりだった。
一方、日本株については、3月本決算企業を中心に日本企業の今2025年3月期のガイダンス(会社予想)が出そろったが、これが減益予想となっていることが相場の重石となっている。確かに為替前提は1ドル=143~144円前後という企業も多く、実勢よりも円高を想定していることも減益予想の背景のひとつにある。
だが、結局のところ、4~6月期(第1四半期)の決算の中身(実績と予想)を確認できる7月中旬~8月下旬までは予想EPS(1株利益)の上昇は見込めない。そのため、上値は重い展開になりそうだ。
しかも、日米とも予想EPSが伸びなやむ中で、年後半にかけて日本は追加利上げ観測、アメリカでは市場が期待していた年2~3回の利下げ機運が低下している。これらなどから考えると、年後半にかけては日米の金融政策の方向性などから日米金利差縮小が緩やかに進み、ドル高円安が修正されるとみる。現在は保守的と見られている円安恩恵企業について、今後は上方修正期待が剥落するとみているのも、前回から不変だ。
では、今後の日本株はどうなるだろうか。今回は5月31日の大引け後に実施された「MSCI指数の定期見直し」を1つのヒントに、先行きを占ってみたい。
■MSCI指数での日本株組み入れ比率は1995年の5分の1
MSCI指数とは、アメリカのMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)が算出・公表する指数のことだ。世界の機関投資家が運用成績の「比較対象指標」(ベンチマーク)として使用する最も有名なインデックスと言っても過言ではない。
正確には「MSCI All Country World Index」、通称「MSCI ACWI(アクウィ)」という。先進国23カ国と新興国24カ国の大型株&中型株 で構成されており、簡単に言えば、新NISA(少額投資非課税制度)で人気の「全世界株式オールカントリー」に似たインデックスだ。
このMSCI指数の定期見直しは2、5、8、11月の年4回実施。各回とも月の中旬をメドに発表、月末に入れ替えが行われる。直近は5月末に実施されたわけだが、日本株では新規採用がアシックス1銘柄のみだった。
一方、除外はシャープ、清水建設、小田急電鉄など計15銘柄に及んだ。さらに浮動株比率(FIF)を基準とする変更で17銘柄、運用株数変更も48銘柄もあった。こうした一連の見直しに伴うリバランス売買に伴って、日本株から1664億円の純資金流出が起きたとされている。売却した主体はこのMSCI ACWI指数をベンチマークに運用をしているブラックロックなどの大手ファンドだと推定される。
MSCI指数における日本株の組み入れ比率を見ると、1995年の4月末には25%もあったが、直近の2024年5月末ではわずか5%と5分の1に減少。銘柄数で見ても2007年末のピーク時は398銘柄あったが、今年6月1日現在では約半分の203銘柄まで減少している。
MSCI定期見直し後の日本株からの資金流出額は、コロナ禍以降に一段と進んでいる。一番大きかったのが、3年前の2021年5月末時の入れ替えだ。新規組み入れはゼロのいっぽう、29銘柄が除外された結果、5100億円(月換算では約10兆円)の純資金流出となった。次に大きかったのは、2021年11月末時。新規組み入れはわずか2銘柄で15銘柄が除外され、やはり1975億円(月換算約4兆円)の純資金流出となった。
日経平均などの変動については、直接的にはパッシブ運用者(ベンチマークに連動した運用成果を目指すファンドなど)によって影響を受けるとされる。
だが、実は「アクティブ運用からの売り」も大きな影響力を持つのだ。アクティブ運用をするファンドやアナリストも、MSCIの定期見直しを警戒している。
こうした傾向は、MSCIインデックスから除外される銘柄に、海外のヘッジファンドなどによる売りが入り、株価が大幅下落したことが2021年に起こり、それがトラウマとしてあるためだ。
■日本株上昇に必要な「MSCIでの比率上昇」と「円高」
前出のように、グローバルな運用者は、MSCIをベンチマークとしていることが多い。そのため、MSCI見直しで除外された銘柄は、自らの調査対象から外れ、売却することが多いのも事実だ。
わかりやすく言うと、レストランのメニューから消えることと同じだ。世界のアクティブファンド運用者は、運用規模も大きいので、メニュー(調査対象銘柄)を世界の大型株と中型株に限ることが多い。世界の小型株はメニューにもないので、買わないのだ。
最近でこそ「外国人投資家の日本株買いが復活した」と言われているが、日本株が本格的に上昇するには、MSCI ACWI指数全体に対する日本株比率が今後増加することが必要不可欠だ。結局、MSCI ACWI指数に採用されている他の銘柄に対して、日本企業が資本コストや株価をさらに意識した経営をすることによって、日本株が他の世界株よりも大きくアウトパフォームすることが重要だ。
もう1つ、為替も重要な要素だ。巷間、円安は日本株にプラスとされるが、実は円高にならないとダメなのだ。円安だと、日本株が「世界のレストランのメニュー」から消えてしまうのだ。なぜならMSCI ACWI指数の日本株の評価はドルベースだからだ。日本株が世界で復活するカギは「円高復活」かもしれない。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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