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孫正義がかつての盟友に捧げた「非常識すぎる弔辞」に込められた真意

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2024-06-24 05:32

杓子定規になる必要もないし、エリートを目指す必要もない。いかがわしいと思われているくらいが、自分の魅力を最大限に発揮している状態だ。...

  Photo:JIJI(孫正義氏)/Photo by Motoyuki Ishibashi(川邊健太郎氏)/>

  想像を絶するスピードとスケールで10兆円企業をつくりあげた経営者から学ぶべきことは多い。孫正義ソフトバンクグループ代表の評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談し、ビジネスパーソンに学びをお届けする連載「ビジネス教養としての孫正義」の第17回。対談相手は、長年にわたって孫正義の経営を近くで見続けたLINEヤフー会長の川邊健太郎氏。孫氏と共にヤフージャパンを創業し、川邊氏が経営の基本を学びとった井上雅博氏が語った「真面目な人間の盲点」とは。さらに孫氏が井上氏の葬儀で読み上げた“非常識的”な弔辞に川邊氏は驚いたと言います。(取材・構成/ダイヤモンド・ライフ編集部 大根田康介)

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  ● 「ほとんどが儲かる夢だね」 川邊氏が絶賛する孫正義の楽観力

  井上 他に、孫社長がずば抜けて高い能力はありますか?

  川邊 率先垂範のリーダーシップですね。自ら考え、構想し、計画し、交渉する。この率先垂範の姿勢は、すごいですね。私も様々な企業経営者を見てきましたが、孫さんは図抜けています。これがいいのか悪いのか、評価は分かれると思いますが、孫さんの仕事にはきちんと成果が出ていますから。

  現東京都副知事でヤフーの元社長だった宮坂学さんとある会議に同席していたとき、孫さんに言われたことがあります。それは「24時間、起きている間はずっと仕事について考えるのは当たり前だけど、寝ているときに見る夢の7割も仕事じゃなきゃ駄目だからな」ということです。そこまでくると、もう孫さんには全然追いつかないなと感じました。

  そこで面白かったのが、宮坂さんが「7割が仕事の夢ということですが、そのうち何割が儲かる夢で何割が損する夢ですか?」と孫さんに聞いたことです。すると、孫さんはニヤリとして「ほとんどが儲かる夢だね」と言っていました(笑)。

  やはり、リーダーはこうでなければと改めて思いました。もし「損する夢ばかりでつらいんだよ」と言われてしまったら、「本当にこの人についていって大丈夫か?」と疑問に思うでしょう。しかし、「儲かるんだ!」と楽しそうに話されたら、「こういう明るい人ならついていってもいいかな?」という気持ちになります。

  ● 孫氏が読み上げた弔辞の冒頭 「とても横着で態度が大きい」

  井上 そういうリーダーシップを孫さんから学んだんですね。私の過去の取材メモによると、川邊会長には3人の恩人がいたという話でしたが、誰だったのか改めてお教えください。

  川邊 孫さん、宮坂さん、そして井上雅博さんですね。井上さんは、孫さんと共にヤフージャパンを創業した人ですが、サービスの作り方や経営の数字の見方、マネジメントの仕方など、経営の基本は全て井上さんから吸収しました。彼は大局観があり、数字にとても強く、けれども「怠け者」の側面も併せ持つ経営者でしたね。

  井上さんはエンジニアなので、無駄をなくして自動化する方法を常に考えていました。彼が怠け者であったからこそ、様々なサービスが生まれたのだと感じました。怠け者の特性はエンジニアにとっては才能です。

  井上 井上社長と会話する中で、何か印象的な言葉はありますか?

  川邊 井上さんはエンジニアとして、現場の人たちとよくシステムの話をしていました。私も現場のプロデューサーでしたので、井上さんとは頻繁に会話しましたが、「君らは真面目でいいけど、その真面目さが間違った仕様で正しく作ることにつながってしまう。だから、まずは仕様が正しいかどうかを確認した上で作業を始めるべきだ」という言葉が特に印象的でした。

  どんな製品も、正しい仕様であれば、間違って作っても修正するコストが少なくて済みますが、最初から間違った仕様で作ると修正に大きなコストがかかります。最初から正しい仕様にしておかないと、後で追加費用がかかってしまい、最終的には損失につながることを何度も教えられました。

  また、経営者としての井上さんの言葉で印象深いのは、ライブドアがテレビ業界に進出する話が出た際、「ヤフーもテレビ事業を始めないのですか?」と質問したら、井上さんが「そんなことはしない。利益率が低いから」と即座に否定したことです。

  私もヤフーの経営者として働く立場になって分かったのですが、ヤフーの広告の利益率の方が相対的に高いため、テレビ広告と一緒にすると利益率が低下し、投資家からの評価も下がってしまうというわけです。井上さんは、経営的観点から即断するのが特徴でした。普通なら検討する段階があってから結論を出すのでしょうが、井上さんはそうではなく、一言で経営判断をしていましたね。

  井上さんは2017年に亡くなりましたが、そのお別れ会で孫さんが述べた弔辞がすごかったです。冒頭から「井上さんはとても横着で態度が大きい」と始まったので驚きました。

  他にも、アメリカに出張した際、孫さんが両手にたくさんの荷物を持っていた横で、井上さんは悠々とたばこを吸っていたそうです。それで孫さんが、井上さんに荷物を一つでも持ってくれないかと頼んだら、井上さんから「腰が痛いんですよね」と断られたと言います。

  井上さんは昔、ソフトバンクで社長室長として孫さんの側近でした。しかし、なかなかうだつが上がらず、孫さんがヤフーを立ち上げ、井上さんに「社長でもやってみるか?」と尋ねると、「やります、やります。孫さんから離れられるなら何でもやります」と二つ返事だったそうです。

  その後、井上さんが実際に社長を任されると、ヤフーは驚くほど急成長しました。そのとき、孫さんは「社長しかできない人がいるというのを井上くんで初めて知った」と話していました。

  ● 「いかがわしくあれ」 孫正義から若者へのメッセージ

  井上 もう1人の恩人、宮坂さんについては、どういう点を尊敬しているのでしょうか?

  川邊 宮坂さんは、私にとって兄のような存在です。井上さんは自信に満ちており、最終的には自分の力で何とかするという印象でした。対照的に、宮坂さんは人に注目し、部下の才能と情熱を引き出すことに重点を置いていました。そして、おそらく、その世代の中で最も能力を解き放たれたのが当時副社長だった私だと思います。

  井上 以前、ヤフーの「令和の特集」で川邊さんが孫さんにインタビューした際、「いかがわしくあれ」と孫さんは発言していました。その言葉をどのように受け止めましたか?

  川邊 その発言を引き出せただけでも、私のインタビューは大成功だったと思います。立派な会社や人物として見られると、成熟してしまい、伸びしろがなくなってしまう可能性があります。日本的常識という観点で、アメリカのシリコンバレーのベンチャー企業が最初はいぶかしがられたように、その会社や人が何をやっているのか分からない、いかがわしいと思われているくらいが伸びしろがあってちょうどいいという意味です。

  杓子定規になる必要もないし、いきなりすごいエリートを目指す必要もありません。いかがわしいと思われているくらいが、自分の魅力を最大限に発揮している状態です。この言葉を、社会で活躍している若者に必ず伝えるようにしています。

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