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金利上昇で資金繰り悪化、土木工事会社の破綻に学ぶ過剰債務状態のリスク《楽待新聞》

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2024-06-23 18:00

金利上昇で資金繰りが悪化する中小企業が出始めている。5月15日に事業を停止した土木工事業者「内海工業」(本社・宮城県...

  金利上昇で資金繰りが悪化する中小企業が出始めている。

  5月15日に事業を停止した土木工事業者「内海工業」(本社・宮城県気仙沼市)もその1つだ。

  同社は2005年の創業以来、新潟県中越沖地震(2007年)や東日本大震災(2011年)の災害復旧工事で実績を重ねてきた。

  災害復旧やインフラ修繕に関連する土木工事のほか、クレーン作業や重機運搬などを手がけていたが、近年は復興需要の収束により受注が減少。多額の有利子負債に伴う利払い負担も重荷となり、事業継続断念に追い込まれた。

  記事の後半では、帝国データバンクが実施したアンケート結果を踏まえながら、今後予想される金利上昇が企業経営に与えるインパクトについて考察する。

  ■負債額は9億円超、設備投資で借入膨らむ

  内海工業が倒産に至った顛末はこうだ。

  同社は業歴は浅いながらも、上場ゼネコンやその1次下請け業者からコンスタントに工事受注を確保し、ピークとなる2019年5月期には年売上高19億7400万円を計上していた。

  この間、働き方改革の一環として国土交通省が推進する「建設キャリアアップシステム」に登録し、工事作業員ごとの労務管理に注力。経済産業省が推進する「健康経営優良法人」の認定も複数回受けていた。

  加えて、各種クレーンやサイレントパイラー(杭の打ち抜きのために使う機械)などの設備に積極的に投資して施工能力を高め、元請け業者から一定の信頼を得ていた。

  しかし、一連の震災復興関連の需要収束に加え、コロナ禍の影響もあって減収推移をたどり、2023年5月期の年売上高は10億2600万円に減少。この間、取引先の倒産で不良債権が発生し、赤字を散発していた。積極的な設備投資に伴って借入金は年々膨らみ、余裕のない資金繰りを余儀なくされた。

  このため、コロナ禍前半にはゼロゼロ融資を導入するほか、売上規模を過度に追い求めない「収益重視」の経営方針に転換。新規得意先の開拓に注力するとともに、選別受注に取り組んだ。

  大型クレーンなども売却しながら打開策を探っていたものの先行きの見通しが立たなくなり、2024年4月末をもって従業員を解雇。9億円超の負債を抱えたまま、自己破産申請の準備に入った。

  ■「有利子負債月商倍率」が5倍に上昇

  今回の事例を振り返ると、コロナ禍以降に膨らんだ借り入れ負担が経営の重荷となっていたことが分かる。年売上高はコロナ禍前の2019年5月期からの4年間で半減近くまで落ち込んだ一方で、借入金はこの期間に2.4倍に増加した。

  その名の通り、月商に対する借入金の大きさを表す「有利子負債月商倍率」を見ても、1.15倍(2019年5月期)→5.34倍(2023年5月期)に急上昇しており、業界平均値(2.5倍前後)を大きく上回っていた。

  借り入れが膨らめば、当然ながら支払利息も増える。同じ期間の金額の推移を見ると、ゼロゼロ融資の特徴である「実質無利子」の恩恵を受けた時期もあったものの、227万円(2019年5月期)→550万円(2023年5月期)と利払い負担は明らかに増していた。

  過剰債務状態にある企業にとって、利子負担はボディーブローのようにじわじわと資金繰りに影響する。今回の事例は、今後予想される利上げ局面における企業倒産のひとつのパターンを暗示している気がしてならない。

  ■「金利上昇でマイナス影響」不動産業がトップ

  帝国データバンクが5月21日に発表した「金利上昇による企業への影響調査」を見ると、今後の金利上昇が日本企業に少なからずインパクトを与えそうなことが分かる。

  全国・全業種2万7052社を対象に、金利の上昇が自社の事業にとってプラスの影響とマイナスの影響のどちらがより大きいかアンケートを実施。結果は以下の通りだ。

  (外部配信先では図表、グラフなどの画像を全て閲覧できない場合があります。その際は楽待新聞内でお読みください)

  「マイナスの影響の方が大きい」と回答した企業が全体の37.7%で4割近くを占めた。次いで、「どちらとも言えない(プラスとマイナス両方で相殺)」が33.2%、「影響はない」が14.4%で続いた。「プラスの影響の方が大きい」は2.8%にとどまった。

  業界別に見ると、「マイナスの影響の方が大きい」では不動産業(47.7%、全体比+10.0ポイント)がトップ。住宅ローン金利の上昇で住宅購入の買い控えが懸念されるほか、業者側も先行投資資金の負担がこれまで以上に重荷となる。

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  企業からは「住宅ローン金利が上昇すれば、不動産販売は厳しくなり市場は冷え込むと推察する」「大規模修繕時に修繕積立金が不足した場合、発生する借入金の利息が上がることが懸念されるため、将来借り入れを起こさないよう修繕積立金の増額を行った」といった声も聞かれた。

  製造業(42.6%)も全体を約5ポイント上回った。顧客企業の設備投資抑制に加え、自社の設備投資に伴う借り入れ負担も重く、金利上昇の影響を大きく受けそうだ。

  他方、「プラスの影響の方が大きい」では、貸出金の利回り改善で収益性の向上が期待される金融業(14.6%、全体比+11.8ポイント)が唯一10%を超えた。

  ■「金利ある世界」への対応が急務

  金融政策の正常化は、長期的にみて日本経済には総じてプラスの影響が期待できる。だが金利が上昇する場合、返済利息の負担増加などマイナスの影響は避けられないだろう。

  市場関係者の間では「早ければ今夏での追加利上げへの警戒感」も出始めている。

  追加利上げが行われれば、中小企業向け貸出金利に影響を与える「短期プライムレート」をメガバンクが引き上げる可能性が高い。メガが引き上げれば、地銀や信金・信組も追随する流れとなり、多くの企業で借入金の利息が上昇することになる。

  とはいえ、当面頻繁な利上げは行われず、低金利政策は維持されることが予想される。しかしながら、中長期でみれば金利上昇圧力が強まっていくことは間違いない。

  物価や経済の状況に十分配慮した金融政策の実施が進められるなかで、企業においても「金利のある世界」に対応できる意識の切り替えや体力の強化が必要となる。

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