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「障害者に貸せる物件はない」耳を疑う最悪対応も…“住宅弱者”を救う新サービスとは?

iconYAHOO·JAPAN

2024-06-09 19:32

春は大学進学や新卒入社、異動などを機に新たな土地に移り住む人が多い季節。新生活の基盤となる住まいは大切な場所だが「外国籍」や「障害者」など個人の属性によって、住居を得にくい人々がいる。住宅情報サイト「LIFULL HOMES」を運営するLIFULLは2019年から、部屋探しが難しい人々をサポートするサービス「FRIENDLY DOOR」を展開し、社会課題の解決に取り組んでいるという。...

  LIFULL LIFULL HOME'S事業本部 FRIENDLY DOOR責任者の龔 軼群(キョウ イグン)氏 撮影:清談社/>

  春は大学進学や新卒入社、異動などを機に新たな土地に移り住む人が多い季節。新生活の基盤となる住まいは大切な場所だが「外国籍」や「障害者」など個人の属性によって、住居を得にくい人々がいる。住宅情報サイト「LIFULL HOMES」を運営するLIFULLは2019年から、部屋探しが難しい人々をサポートするサービス「FRIENDLY DOOR」を展開し、社会課題の解決に取り組んでいるという。(清談社 真島加代)

  ● 部屋探しが困難な 「住宅弱者」とは?

  「賃貸物件を借りにくい人」と聞いて、どんな人物像を思い浮かべるだろうか。LIFULLが行ったアンケート調査(*)によると、高齢者や在日外国人、被災者やシングルマザー・ファザーなどの60.4%が「住まいを探す際に不便を感じたり、困ったりした経験がある」と回答したという。

  (*)…2022年度 住宅弱者の「住まい探し」に関する実態調査(株式会社LIFULL)/調査期間:2022年4月15日~4月20日/調査方法:インターネット調査/直近2年以内に国内での賃貸契約を行った1534名(うち住宅弱者1322名)

  「政府は、そうした悩みを抱えている人々を『住宅確保要配慮者』と定義しており、当社では住宅要配慮者のカテゴリーに、LGBTQやフリーランス、家族に頼れない若者たちも加えて『住宅弱者』と呼んでいます。住宅弱者層は、不動産の選択肢が極端に少なく、一般層に比べて入居審査が落ちやすいため、なかなか部屋が借りられません」

  そう話すのは、LIFULL LIFULL HOME'S事業本部 FRIENDLY DOOR事業責任者の龔 軼群(キョウ イグン)氏。同社が行ったアンケートには、以下のようなコメントが届いている。

  「気に入った物件があったが、不動産会社に問い合わせた際、その年齢では審査に通らないので、その物件は諦めるように勧められた」(女性60代以上)

  「外国籍のため、大家さんに断られたことがあります。また、日本人の緊急連絡先が必要とのこと。連絡する相手がいないと必ず断られます」(女性30代)

  「精神障害者ということで契約が破棄になったり『精神障害者には貸せる物件はない』といわれたりしたことがある」(男性40代)

  住宅弱者たちは、こうした苦い経験をしても声を上げないため、問題が表面化しにくい、とキョウ氏。「自分はマイノリティーだから仕方ない」と諦め、口をつぐむ人が多いという。

  「住宅弱者が部屋を借りにくい理由は、バックグラウンドごとに異なります。高齢者の場合は孤独死リスク。外国籍の人は、ゴミ捨てやマナーなど文化の違いが懸念され、LGBTQの人々に関しては同性カップルに対する偏見などが入居審査に影響を及ぼしています。たしかに高齢者の孤独死はオーナーにとって負担になる面もありますが、若い人よりも長く住んでくれるというメリットもあるんです。今後人口減少が進む日本で、負の面だけを見て住宅弱者の入居を拒否していると、物件の空室リスクがさらに高まります」

  部屋が借りにくい人がいるにもかかわらず、地方では空き家や賃貸物件の空室が社会問題になっている。キョウ氏は「日本の不動産業界は大きな矛盾を抱えている」と指摘する。

  ● 住宅弱者をサポートする 「FRIENDLY DOOR」

  そんななかLIFULLは、2019年に住宅弱者の住まい探しをサポートする不動産会社を検索することができるサービス「FRIENDLY DOOR」をスタートした。「高齢者」や「シングルマザー・ファザー」など、カテゴリーごとに丁寧に対応してくれる“住宅弱者フレンドリー”な不動産会社の検索が可能とのこと。

  「住宅弱者当事者は、来店自体を拒否されるケースも多く、部屋探しのスタートラインにも立てません。そこで、当社が運営する住宅情報サイト『LIFULL HOME'S』会員の不動産仲介事業者に、カテゴリーごとのサポートが可能か否かを選択してもらい、可能ならば『FRIENDLY DOOR』に情報を掲載する仕組みを作りました。掲載店舗に問い合わせが入るごとに、料金を支払っていただく形で収益化しています」

  サービスのリリース当初、500店舗ほどだった事業者は現在、5600店舗超まで数を増やしている(2024年4月現在)。プロジェクトとしては、不動産会社や物件のオーナーを対象に、住宅弱者対応の無料セミナーを開催したり、接客に関するチェックシートを提供したりと、啓蒙活動にも力を入れているという。

  「また、障害を抱える方々は行政の専門的なサポートが必要なケースがあるので、当事者の方を居住支援法人につなげることもあります。日本では、住宅弱者や住宅確保要配慮者といった言葉が浸透しておらず、当事者本人も相談先がわからない状況なんです。プロジェクトをはじめてから、住宅弱者が抱える困難を伝える重要性と、難しさを痛感しています」

  ● 学生時代の“怒り”が サービスの原点に

  「FRIENDLY DOOR」はキョウ氏が自ら発案したサービスでもある。その発想の原点は、自身の経験と深く関わっているという。

  「私は中国で生まれ、幼い頃に日本に渡ってきました。中国国籍なので、私も住宅弱者のカテゴリーに入りますが、学生時代まで実家に住んでいたので、住まいに困ったことはなかったんです。ところが、私と同年代のいとこが留学生として来日し、部屋探しを手伝った際に“入居差別”を経験しました」

  物件を探し始める前から「留学生は保証会社を利用できない可能性が高い」と予想していたキョウ氏は、事前に日本人の親戚を保証人に立てて不動産屋に足を運んだ。万全を期したにもかかわらず「中国の留学生は難しい」との返答のみで取り合ってもらえなかった、と振り返る。

  「いとこは日本語の会話も不自由なくできますし、経済的に困窮しているわけでもない。なにかあれば、日本の文化を理解している私がサポートすると交渉してもNGでした。2009年当時、政府は『留学生30万人計画』を掲げていましたが『この状況では、途方に暮れる留学生が増えるだけだ』と、強い憤りを感じましたね」

  その後キョウ氏は、自宅近くの不動産会社を10店舗以上訪問。外国籍の入居希望者の対応について話を聞いた。

  「当時は、住宅弱者という概念すらも存在していなかったので、インターネットで検索しても情報はあまりなく、自分で調査するしかありませんでした。ヒアリングの結果、外国籍の人はなかなか部屋を貸してもらえない、という実態が見えてきたんです」

  当時就活中だったキョウ氏は、その調査結果を持ってLIFULLの入社面接に向かった。創業者(現会長)の井上高志氏を相手に「外国人のサポートサービスをしたい」とプレゼンしたという。

  「面接では『不動産会社に入社しても同様の支援ができるのでは』と突っ込まれました。しかし『不動産会社に入社して解決できるのは、私の目の前の人だけです。根本的な課題を解決するためには、日本の不動産業界全体の価値観を変えなければならないので、社会課題解決を目指し、不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOMES」を運営するLIFULLでなければ実現できない』と答えたところ、その切り返しが“面白い”との評価を得て内定がもらえたそうです(笑)。LIFULLはもともと『事業を通して住まいの社会課題を解決する』という理念を掲げて、井上が立ち上げた会社でもあるので、私のプレゼンにも共感してもらえたのだと思います」

  LIFULL入社後、キョウ氏は営業や企画、国際事業部などさまざまな部署で経験を積んだ。そんな折、仕事で関わった障害者の入居を支援するNPO法人の担当者から「部屋を探してくれる不動産会社が見つからない」との悩みを聞き、外国人に限らず、より幅広いバックグラウンドを持つ人を対象にしたサービスを思いついたという。

  ● 「FRIENDLY DOOR」の 不要な世界が最終目標

  そして彼女は「FRIENDLY DOOR」の事業概要をまとめ、社内のビジネスコンテストに応募し、優秀賞を獲得。2018年に事業化の権利を得てからは、東奔西走の日々を送った。

  「所属部署で任されている本業と平行して、新規事業の立ち上げに割けるリソースは2割ほど。私が止まると事業もストップしてしまうので、必死でしたね。ただ、サイトの開発や、営業との連携、PRなど、私一人ではできないことばかりなので多くの社員に協力してもらい、約1年でローンチできました」

  2019年のローンチ以降、「FRIENDLY DOOR」はさまざまなビジネスアワードでグランプリを受賞し、注目度の高いサービスとなっている。今後は、掲載不動産会社を増やしつつ、住宅弱者向けの物件情報の提供にも尽力していく予定とのこと。

  「最終的には『FRIENDLY DOOR』が不要な社会にならなければ、意味がありません。どんな人も、普通に部屋が借りられる世界を実現するのが目標ですね」

  不動産業界の新たな扉を開く――。キョウ氏の挑戦ははじまったばかりだ。

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